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ENo.234 吠崎 吼音の、False Islandについてのアレコレ。
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吼音だけはほとんどちゃんと出たけど、でもあくまでほとんどなので。

村人のざわめき、犯人を名指しする声。人々の輪からは困惑の声と訝しむ声があがる。
  そんな、まさか……
             占星術の占いは……?
     でも、あれが嘘だとしたら、なんでいなくなって……
                    もやもやなんて、そんな不確かなもの……
  判別できないのに、なんでわかるんだ……?



喧騒のすぐ横で、悪鬼羅刹の少年は一人、うつむいて考えを巡らせていた。
”本当に、まだ終わらなかった”。
自分たちの選択は、正しかったのだろうか。誰かの言葉ひとつで簡単に、ひとの命を奪うことの恐ろしさ。次は自分ではないという保証は、どこにもない。

「……自分が喰らう側のほうが、下手すりゃ安全なのかもな」
誰かの一言でこれだけの混乱が起こるのだ。煽る側のほうが、存外安全なのかもしれない。
思わずひとりごちてしまい、慌てて周囲を見回す。こんなことを喋って誰かに聞かれたら、それこそ自分が危険な立場になってしまうかもしれない。

「恐ろしいな、ほんとに」

ため息とともに呟く。ふと見た人々の輪の外に、自分と同じように佇む紅蓮華の姿。
無機質にも思える瞳で海市蜃楼を見る少女が妙に気になり、少年は彼女のもとへと歩み寄った。

「しるしは、それじゃない。彼のいうことは、てきとうで、間違ってる」
横に並んだ悪鬼羅刹へ向き直ることもせず、少女は告げた。
自信に満ちた、はっきりとした言葉。その姿は、昨日の占星術を彷彿とさせる。
「なんでそんなこと、わかるんだ?」
「彼岸花がね、咲くの」
至極当然の疑問。投げかけると少女は、明快なようなそうでないような、もやもやな回答を返してくる。



紅蓮華の言葉を確かめようと、悪鬼羅刹は墓所へとやって来た。
あたり一面、墓石のまわりに咲き誇る、季節外れの紅蓮の花。その中で一箇所だけ、灰色の絵の具を落としたように、緋色が抜け落ちた墓石が佇んでいる。
真新しい墓石。刻まれた名前を見なくとも、それが誰のものか、すぐにわかった。

「……あれが、そうだって言うのか?」
紅蓮華は黙って頷いた。悪鬼羅刹には、それに返す言葉がない。暫し無言で佇む。やがて踵を返し、墓所を後にした。
少女もまた、その後を追う。花々を喘がせる風の音だけが、墓所の静寂をまもっていた。



「なあ、その、光合成についてなんだけど」
投票を前にして、悪鬼羅刹の少年は初めて、自分から口を挟んだ。
「こいつが言うには、海市蜃楼の言うことは間違ってる、んだそうだ」
そう言って背中を押された紅蓮華の少女は、相変わらず無機質な瞳で静かに、悪鬼羅刹へ話したのと同じものを、滔々と話してみせた。
曰く、海市蜃楼は嘘つきである、と。

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